麗雪神話~炎の美青年~
男と女が武器をおろした。

二人ともセレイアたちの方に近づいてくる。

「わが町のために戦ってくれて、ありがとう、旅のお方たち。私は火の部族アル=ハル族の族長、アル=ハル」

うねる真っ赤な髪が獅子のたてがみを連想させる男は、そう名乗った。

四十がらみの容貌だが、十分に勇猛そうで美しい。

そしてそばに控えた女性も名乗った。

「わたくしはアル=ハル様にお仕えする補佐役のカティリナと申します。以後お見知りおきを」

「は、はい…」

セレイアはこの段になってやっと驚きから立ち直った。

二人はこの部族のトップであるらしい。

粗相のないようにせねばなるまい。

「私は旅人のセレイア。そしてこっちが―」

「兄のディセルです。助太刀いただけて助かりました。ありがとうございました」

ディセルも丁寧にお辞儀をしている。

しかし、セレイアははたと気が付いた。

彼らはこの戦いをどこからどこまで見ていたのだろう。

ディセルの力がばれているのでは―?

アル=ハルが意味深な視線をディセルに送り、こう告げる。

「お二人とも、ただ人ではありますまい。特に、ディセルという方」

―う…。やはり見られていたか…。

「もしよろしければ、我が天幕にてゆっくりと話でもいたしませんか。十分におかまいできないかも知れませんが、ささやかながら礼をしたい。今宵の宿も提供しましょう。どうです?」

否と言っても、了承してくれない目だった。

セレイアは内心で嘆息し、ディセルと軽く目配せすると、頷いた。

「わかりました。ご一緒させていただきます」

四人は連れだって、アル=ハルの天幕へと向かった。
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