……っぽい。
裏切られたという感覚は全くなかった。
ただ、純粋にどうしてと思う。
そんなに辛そうな顔になるまで黙っていて、一人でずっと抱え込んでいて、それをおくびにも出さないで普段通りに笑っていて。
そりゃ、本格的に部屋を探し始めた辺りから少し元気はなかったけれど、私が今日、偶然話を聞いてしまわなかったら最初からなかったことにするつもりだったのだ、笠松は。
そんなの、やっぱり違うんじゃないかな。
「……ご、めん」
しばらく黙っていたけれど、頬を挟んだまま私が動かなかったので、観念したように瞳を伏せた笠松は、私の手を取りゆっくりと自分の頬から離すと視線を床に投げたまま小さく言う。
涙をシャワーで流していたのだろう、バスルームに突入したときからすでに笠松の目はほんのり赤くなっていて、充血もしていた。
怒鳴ったことへか、今まで相談をしなかったことへか、それとも別の何かへか、笠松はそれから何度か「ごめん」と泣きそうな声で繰り返し、そのたびに私はふるふると首を振る。
本当は今、出張に行くと言ってもらいたいけれど、泣くほど嫌ならこれ以上はしつこくできないし、言いたいことも言えたから、私はいい。
ただ--。