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第九章
 夜の夜中に、貫七は厠に立った。
 実際は厠に用はなく、おりんと話をするためだ。

 貫七たちは一つの部屋である。
 猫のおりんと、話は出来ない。

『お嬢さんがやる気になったのはいいけどさぁ。あいつがほんとに女になったら、ややこしいことになりそうだよ』

 旅籠の裏手に出、おりんは切り出した。

『あいつ、本気でお前に惚れちまってる』

「……なるほどなぁ。何かいきなり態度が変わったから不思議に思ったが。でも何でだ? 今までどころか、ほとんどついさっきまで、見向きもしなかったくせに」

 この外見故に、男にまで言い寄られることは多かったのだが、皆一目惚れだ。
 出会ってすぐに言い寄ってくるのならわかるが、時間が経つにつれて好きになられるなど初めてだ。
 今日一日で、何が変わったわけでもないだろうに。

『お前がさぁ、あいつのことを、ちゃんと考えてやるからだよ』

「俺が?」

 意外そうに言う貫七に、おりんは、ふぅ、と息をつく。

『真剣に術者を探してくれるしさ。あいつの今後も、心配してるような言い方だったじゃん』

「そらぁ真剣になるよ。探し求めたものが、見つかるかもしれねぇんだ。必死にならぁな」
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