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 ええええ、とおりんは娘から逃げようとしたが、大男が嬉々としておりんを掴んだ。

「やったね。良かったのぅ、猫ちゃん。これで生活の心配はねぇぞぉ」

 まるで自分が飼えるかのように、嬉しそうに言う。
 がっしりと捕まり、おりんは再び心で泣き叫んだ。

---か、貫七ーーっ!! 攫われちゃうよぅ! 助けてーーーっ!!---

 にゃああぁぁぁ、と悲痛な鳴き声を上げたおりんに、ざり、と地を擦る音が聞こえた。

「悪いね、お嬢さん。そいつぁ俺の連れだ」

 は、とおりんが顔を上げると、懐手の貫七が、爽やかな笑みを浮かべて立っている。

---か、貫七ーーーっ!!---

 にゃうぅぅ~ん!! と情けない声を上げて、おりんは貫七に飛びつこうともがく。
 が、おりんを抱いているのは娘ではなく大男だ。
 じたばたと暴れても、手は緩まない。

「えっ……。あ、あの……」

 貫七に見惚れていた娘が、どぎまぎと聞き返す。
 貫七は、さらに一歩娘に近付いて、駄目押しの笑顔を、にこ、とお見舞いしてから、大男に向き直った。

「その猫だよ。俺の大事な連れなんで、返しておくれ」

 僅かに悲しげな色を目に浮かべて、大男を見る。

「お、おお……。に、兄ちゃん、この猫の飼い主か」

 この世の者とは思えないほどの美形に哀願され、大男もたじたじとなる。
 おりんも悲しそうに、貫七に向かって『にゃううぅぅ~ん』と鳴いた。

 美形の哀願と可愛い猫の鳴き声で、腕っ節では相当なものであろう大男との勝負は、一瞬でついた。
 娘も大男に、猫を返すよう言いつける。
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