オトナの恋を教えてください
慌てて身を引こうとすると、私を守るように覆われていた柏木さんの手が、はっきりと私の背に回された。
そして、間もなく本当に抱き締められる。


書架の影、誰もいない休日のオフィス。

柏木さんの心臓の音が、胸に押し付けた頬に響く。
シャツの感触。
柏木さんのシトラスノートの香り。

少し顔をあげると、間近に彼の唇の近く、小さなほくろが見えた。
いつもセクシーだと思って見ているほくろだ。

柏木さんの長い指が、私の顎に触れる。そのまま押し上げられ、上向かされた。
至近距離にある柏木さんの顔がさらに近付く。


「………っ」


言葉を発する余裕はなかった。

柏木さんの唇が私の唇に重なる。

ほんの数秒の接触。

柏木さんはすぐに顔を離した。


「不意打ちでごめん」


少しだけ微笑んだ柏木さんは、なんだか緊張しているようにも見えた。
おそらく真っ赤になっているだろう私は、ただ頷くしかできない。
< 181 / 317 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop