オトナの恋を教えてください
「いろは、いらっしゃーい。1ヶ月半ぶりだな」


柏木さんはドアから呑気に顔を出した。
ここは彼と猫のよもぎが暮らす福岡市内のマンションの一室だ。


「はい、お久しぶりです。お邪魔しますね」


彼の手にお土産のシュークリーム入りの箱を載せると、挨拶もそこそこ、押しのけ気味に中に入る私。


「よもぎ!」


リビングに向かって呼ぶとニャアンと声が聞こえる。
顔を出したよもぎを見て、私は絶句した。


「なんという……憐れな姿。かわいそうに、よもぎ」


テツテツと廊下をやってくるよもぎに、あのなめらかで美しい毛並みはなかった。

下毛ごと大きなお団子になったボコボコの毛玉の塊。
それが、今のよもぎの姿だ。
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