オトナの恋を教えてください
「いやー、先週本当に忙しくて、ブラシ持つ暇もなくて……スマン」


柏木さんが気まずそうに言う。
私はうんうんと頷きながら、まったく納得していない顔で答える。


「わかってます。忙しいのは仕方なく、よもぎの惨事は柏木さんのせいではありません」


「いや、すんごい怒ってるよね。顔怖いし」


柏木さんからヘルプの電話がきたのは、一昨日の夜だ。

普段、柏木さんはよもぎへのブラッシングを欠かさない。
こまめにトリミングに行くし、出張などでペットホテルに預ける時も、オプションでブラッシングを頼むほどだ。

しかし、先週から忙しかった柏木さんは、つい1週間ほどよもぎのブラッシングをサボってしまった。

気付いた時には、よもぎの美しいロングコートは厚い下毛ごと大きな毛玉に覆われていた。

こうなると、ブラッシングは痛いのでよもぎは言うことを聞いてくれない。
ひとりでは手に負えなくなり、柏木さんは私の出動を要請したのだ。

こうして、私は何度目かの個人的な福岡出張にやってきている。
< 304 / 317 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop