まだ、心の準備できてません!
妙な説得力に感心したような気持ちになっていると、夏輝さんは首をかしげて私の顔を覗き込む。


「でも、なんか浮かない顔してるな。熱帯魚の彼とデートしてたんじゃなかったのか?」


……熱帯魚の彼。

そのネーミングに笑っちゃいそうになるけど、さっきのことを思い返すと、また気分が沈み込んでしまう。


「今まで一緒にいたんですけどね、ちょっと……いろいろあって」


笑ってみせるものの、すぐに表情が暗くなるのが、自分でもわかった。

花束とマカロンを抱えて俯いていると、少し間があった後、頭上からこんな声が降ってきた。


「……君、酒は飲める?」


キョトンとしつつ顔を上げ、花火に照らされる美麗な彼と目を合わせて頷く。


「あ、はい、あんまり強くはないですけど」

「そう、じゃあ行こう。いい店知ってるんだ」


にこりと微笑み、くるりと百八十度方向転換して歩き出そうとする彼に、私は目を丸くする。


「え!? や、ちょっと待って!」


“行こう”って、何で勝手に決まっちゃってるの!? 強引な!

あわあわしながら引き留める。

すると、私を振り返った夏輝さんは、何故か冷ややかな視線を向けながら、意地悪そうに右の口角をクッと上げた。

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