課長の独占欲が強すぎです。

 和泉さんの言葉を聞いて、私は彼と会話しているのが有栖川栞だとやっと気付く。和泉さんの足元から見える女性の脚。それは細くて色白で、そしてさっき会場で見た有栖川さんと同じ青いパンプスを履いていた。

 ……どういう事だろう。どうして和泉さんと有栖川さんが?

 どう考えても普通の雰囲気ではないふたりに、私の心臓が不安で脈打つ。なんだか胸の辺りがモヤモヤとして気持ちまで悪くなってきた。

 なんだかこれ以上は聞いてはいけない気がして、私は音を立てないように静かに踵を返すとそのまま会場へと戻っていく。

 会場の扉を開ける前に振り返ると、和泉さんはまだ同じ場所に立っていて、私はその大きな背中がなんだか遠く見えて胸がぎゅっと痛く感じた。

***

 パーティーの翌週。私は和泉さんにあの事を尋ねる事も出来ず悶々としていた。

 堂々と聞けばいいのかも知れない、和泉さんは有栖川さんと知り合いなんですか? って。

 部署は違えど同じ出版関係、顔見知りだったとしても不思議じゃない。

 けれど、あの時の雰囲気はどう考えても“顔見知り”なんて軽いものじゃなく……下手をすれば私の1番聞きたくない答えが返ってきそうで、恐くて聞けなかった。

 
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