課長の独占欲が強すぎです。


「馬鹿だねー、小夏は。もし有栖川栞が元カノだったとしても、宍尾課長だっていい歳なんだから別にいいじゃない。三十過ぎて元カノのひとりもいない方がむしろ恐いわ」

 すっかり落ち込んでいる私を、杏子ちゃんは今日も美味しい手料理とお手製の梅酒で慰めてくれる。

 胸のモヤモヤをどうにも抱えきれなくなった私はついに頼れる友人の元へと駆け込み悩みを打ち明けた。

 話を聞き終えると杏子ちゃんは苦笑いを零し、グラスに梅酒を注ぎながらとても真っ当な言い分で私を慰めてくれた。

 けれど、それでもシオシオと萎れた心は元気にならない。


「だってさー、あの和泉さんが『貴方』だよ? すごい特別視してる感じがする。私なんかいっつも『お前』って呼ばれてるのに」

「それは有栖川栞がビジネスの相手だから丁重に扱ってるだけでしょ。むしろ今は他人って事じゃない。『お前』って呼ぶのはそれだけ小夏に心開いてる証拠だと思うけど」

「うーん」

 杏子ちゃんの言う事が正しいのは分かっている。けれど、有栖川さんのあの儚げな雰囲気が『貴方』と云う丁寧な呼び方と妙なマッチをして、なんだか和泉さんにとって特別な人なのではと云う疑念が湧いてしまう。

 
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