課長の独占欲が強すぎです。

「有栖川栞は宍尾さんにとってのトラウマだよ」

 そう言った東さんの言葉は私の思っていたものと違って、僅かに眉をしかめてしまう。

 ベンチの前を賑やかにお喋りする集団が通り過ぎるのを待ってから、東さんは改めてゆっくりと口を開いた。

「宍尾さんてね、昔は文芸の編集部にいたんだよ。今から5年前まで」

 初めて知った真実に、私は心のどこかで『やっぱり』と感じる。いつかの会話で引っ掛かっていたつかえが解けた気がした。

「そこで担当してたのが有栖川さんだったんだ。当時有栖川さんは初の文学賞を受賞したばかりで、凄く期待が掛かっててね。本人はもちろん担当した宍尾さんも相当のプレッシャーが掛かってたと思うよ」

 その頃、私は大学生だったけれどテレビで若手女流作家・有栖川栞の文芸賞受賞のニュースを度々見たのを覚えている。

 若くて独特の儚さを持つ有栖川さんをマスコミはこぞって取り上げ話題にしていた。当時は『凄いなあ』ぐらいにしか思ってなかったけれど、カメラの前に立つ彼女は今思えば押し潰されそうなプレッシャーにただ弱々しく微笑んでいたような気がする。

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