課長の独占欲が強すぎです。
「橘さん、みんなと一緒に昼食行かない? 俺たちそこの洋食屋に行きつけてるんだけど、今日はちょっとした歓迎会って事でメシ奢るよ」
「わあ、いいんですか? ありがたくご馳走になります!」
東さんの思いやりのある言葉に、初めての仕事で少し張っていた気が緩んだ。へにゃっと顔を緩ませると、それを皮切りに他の社員の人も会話に交じってくる。
「橘さんにはこれからお世話になるんだから、たっぷりサービスしとかないとね」
「おいおい、お前そうやって面倒な資料探し橘さんに押し付けるつもりだろ。橘さん、コイツが無茶言うたびに寿司でもフレンチでもせびっていいからね」
和やかな会話にフロアが笑い声で包まれる。女性社員が私だけってのは不安だったけど、やっぱりみんなイイ人ばっかりだし楽しくやっていけるかもしれない。そう思った時だった。入り口のドアが開いて、どーんと効果音が着きそうな威圧感たっぷりの高身長が中へと入ってくる。
「あ、課長。おかえりなさい。ちょうど今から橘さんのミニ歓迎会ってことで『モーリー』に行くとこだったんです。課長も行きますよね?」
「ああ」
東さんに尋ねられて、宍尾さんがモスグリーンのコンビブリーフケースをデスク脇に置きながらニコリともせずに返事をした。無愛想にしか感じられないその声を聞いて、無意識に生唾を飲み込んでしまう。
……別に嫌って訳じゃないんだけど、宍尾さんと一緒だとなんだか食事が喉を通りづらいような気がする。
こうして微妙な緊張感をひとり胸に抱いたまま私たちはランチを摂りに社外へと出た。