課長の独占欲が強すぎです。

 営業課共用の給湯室に向かおうとして、そう言えば少女漫画部門の人達の湯呑みは何処にあるんだろうと気付き、足を止めた。振り返った時ちょうど宍尾さんが一段落付いたようでパソコンを閉じていたので、タイミングを狙って彼に尋ねてみる。

「すみません宍尾課長。三時のお茶を淹れて来ようと思うのですが、皆さんの湯呑みはどこでしょうか?」

 聞き方に失礼はなかったと思う。けれど、宍尾さんは眼光の鋭い目でこちらを見やるとゆっくり立ち上がって私の前までやってきた。正面に立たれるとやっぱりその威圧感に気圧されてしまって一歩後ずさる。

「そんなものは必要ない」

「え?」

 返された言葉の意味が分からなくて聞き返してしまうと、宍尾さんは私の顔を覗きこむように少しだけ身を屈めて言った。

「茶を淹れる必要など無いと言ってるんだ。三時だろうが何時だろうが喉が渇いたなら勝手に飲め。お前の仕事は給士係か? ひとに茶を淹れてる暇があるなら、さっさと自分の仕事に取り掛かれ」

「……っ!」

 低く厳しい声を浴びせられて、身体が竦んだように動かなくなった。まだ碌に自分の仕事も出来ていない癖に余計な事をするなと暗に罵倒されたようで、恥ずかしさと悔しさで顔が熱くなってくる。

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