片道切符。
嗚咽を洩らしながら、俺の胸元で泣く彼女。
彼女の涙が、自分のシャツにしみこんでくるのを感じた。
『行かないで』と、泣く彼女。
その背中にそっと腕をまわして、落ち着くようにさすってやりたい。
だけどさ、やっぱり俺は…お前の夢を応援してやりたいから、その気持ちだけは本当だから、自分の想いに蓋をするしかないだろ。
「……名前っ…」
ずびずびと鼻をすすりながら、俺の胸元に顔を埋めたまま、愛実が言う。
「真宙に、名前呼んでもらえて…うれしかった…のにっ……!」
彼女の話が見えなくて、俺はそっと、彼女の肩に手をかけた。
それにつられるようにして、彼女がゆっくりと顔を上げる。
ひどい、泣き顔だな…。
「もう一度だけ、名前っ…呼んでもらいたかった……それだけでいいって…思ってた…」
必死に自分を落ち着かせて、言葉を紡ごうとする彼女に耳を傾ける。
「なのに……呼んでくれないから…私のこと、知らないみたいに…避けるからっ…!」
愛実が、事務のバイトとしてやってきたときの話のことを言っているのだろう。
たしかに…俺は彼女のことを、避けていた。
なんでいまさら、こんなところに現れるんだよって…俺の気持ちをかき乱されるのが嫌で、知らないフリをしていた。