泣き虫イミテーション

｢今日は家にかえらないと…｣

｢そう？残念だなぁ｣

さして残念そうでもなく二衣がいう。その表情はいつもと変わらない笑顔だ。
でも朔良はその笑顔に隠していた二衣の感情をひとかけら手に入れたから。

｢…た、橘さんがうちに来れば？｣

(噛んだ…!)

｢ふふっ、朔良くんて本当にバカだね｣


相澤家は男所帯だ。
長男、次男朔良の下に弟三人、妹がひとりだ。

｢賑やかだね、大丈夫？朔良くん｣

クスクスと笑いながら二衣が見る先では、弟たちに押し倒されて尻餅をついた朔良がいた。兄の帰宅に喜んだ朔良の弟たちは朔良が玄関をあけた瞬間に飛びついた。その勢いに負けて朔良は二衣を見上げる。
二階建ての一軒家のまえで朔良は弟たちを紹介した。

｢あー、弟だよ。こっちが小２でこっちは小３。無駄に元気だから｣

｢そうだね｣

｢ほら、挨拶｣

二人は二衣を見て、もじもじとする。

｢はじめまして二衣です｣

｢…柳人です｣

｢いつきだよ｣

恥ずかしがりながら返事をすると、ダダダッと家の中にひっこんでしまった。

｢ままー!さくらが彼女連れてきたよー｣

｢いっちゃん、違う!｣

朔良の制止は遅く、リビングから慌てた様子で母親らしき人が飛び出してくる。

｢違う!!母さん彼女じゃないぞ｣

｢朔がいつもお世話になっております｣

｢母さん!!｣