泣き虫イミテーション

手が離れて。世界は音を取り戻して、もう目も合わさない。朔良は立ち上がり駅に向かう。
その背中が車のライトに眩んで、目をつぶる。二衣は無性に泣きたくなった。この結末を選んでおきながら、それは最低だとわかりながら、なお泣きたくなった。

｢二衣さん、｣

後ろから声が聞こえて、瞳に湛えた涙が溢れたりしないよう力を込める。後ろから抱きしめられて、光成の体温を感じた。

｢ミツ、私は幸せになりたい。私は姉さんに勝つの。真似て追いかけるのに、必死になったりしない。｣

｢うん、｣

｢私は私だから。もう偽物じゃないから。君すら私の幸せの道具よ。どうか私をあの人より幸せにしてみせて。姉さんにうらやましいって言わせてみせて。君が世界で一番私を好きなら、私もきっと君を世界で一番好きになるわ。｣

｢うん。｣

力強く抱きしめられて、自分の形を感じる。それだけで、心が熱くなればいいのにと思う。
瞼の上から、覆いのように被せられた、掌の温度。唇が上下に重ねられて、深く深く飲み込むように舌をからめる。
少し光成の掌に滲んだ涙を気付かないように、指を絡めて二衣は立ち上がる。



｢好きだよ、二衣さん｣

｢ミツ、私もいつか君を好きだよ｣