華吹雪
「桜が綺麗でありんすね」

昼見世までに花魁たちは入浴、髪結い、化粧をすませ、のんびりしんす。

「姐さん、姐さん!」

騒ぎながら、禿の『やすの』と『たいこ』が部屋に飛び込んできんした。

人がええ気分でおりんしたのに…

「なんだい、ぬしらはうるさいね」


遊郭に住み込む幼子のことをかむろと呼びんす。

7つ 、 8つ頃に遊郭に売られてきた男子。

わっちも、花魁である姐さんの下について、食事の支度、たばこの吸いつけ、廓内の小間使いなどをしながら、三味線や唄、書など、いろはを学びんした。

『たいこ』も『やすの』も禿でありんす。

この器量のええ『やすの』は引っ込み禿。
将来の花魁でありんす。

「だって、姐さん。やすのはもうオイラたちとちがうんだろう?」
引っ込み禿は、姐さん方の手を離れ廓主や内儀から新造になる為のいろはを叩き込まれんす。

「なんでや!オイラは今までどおり姐さんと一緒におりたいんや!」


やすのも、たいこもポロポロ涙をこぼす。


「やすの。こればっかりは仕方ない。
ぬしは花魁になるだえ」


こんなに小さい子が、身体一つで生き抜かなければならんのが、この吉原。


「たいこ。たいこもやすのと同じ。
花魁になるだえ。ええか?」


二人がうなずいて涙を拭く。


自分の事すら決めることも出来んせん。
わっちも、この子らも籠の鳥…



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