【好きだから別れて】
“バチン!!バチンバチン!!”


両頬に突き刺す痛みが走り、遠退いた意識が出産台にいるあたしの元に引き戻された。


何が起きたんだ。


なんで腰だけじゃなく顔まで痛いんだ。


「お母さんが…」


「っは…」


「お母さんが寝ちゃダメだ!赤ちゃんが危なくなる!目を覚ませ!」


頬が腫れ上がる痛烈な痛みをお見舞いしてくれたのは他でもない。


医師免許を持ったこの白衣の医者。


いくら気絶してるとはいえ「そこまえやるか」のビンタがあたしの目を見開かせる。


「か…お…」


「顔?」


「ほっぺ痛…い…痛い。痛い。痛い!!っあぁあぁああ!また陣痛きたぁあぁあ!!」


「ちゃんと息して!」


「はぁ!んっく。苦しいの!はぁはぁはぁ」


このタイミングで目まぐるしく起こる困難の山。


どうしたことか興奮の波に飲まれたあたしは、普通に息を吸う方法をスパッと忘れ飛んでしまった。


数分息を吸う努力をしたが、頭と体が別物だ。


「んぁぁあ!!んぁぁあ!!息苦しいの!」


“ピピピピン。ピピピピン”


危機迫る警告音。


元を辿れば赤ちゃんの心音を確かめる機械に繋がっている。


その音がなった瞬間。


医者が顔色を変えた。


「赤ちゃんに酸素がいってない!お母さん。ちゃんと息して!」


「いきぃぃぃいい」


「息して!」


「く、あっ。あっ」


「ダメだ。赤ちゃんが危ない!」


慌ただしく動き出す周りにいた二人の助産婦が顔の横に陣取り、懸命に呼吸を手伝う。


「落ち着いて~はい。ヒッヒッフ~ヒッヒッフ~」


肩をリズムよく叩き、息を整えるアシストをしてくれている。
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