【好きだから別れて】
「落ち着いて。いい?ヒッヒッは吸ってる状態。フーは吐いてる状態。いくよ。ヒッヒッフーヒッヒッフー」


「ヒッッ、フー。ヒッヒッフー」


「頑張って!」


「ヒッヒッフー!」


「そう、ヒッヒッフー。赤ちゃんにしっかり酸素がいかないと赤ちゃん苦しいよ。お母さん頑張ろう。赤ちゃんも頑張ってる」


酸素を赤ちゃんに運んであげなきゃ赤ちゃんが死んでしまう。


10ヶ月間無事にお腹に宿ってくれてたのに、自分のせいでこの世で産声すらあげれず、命のともしびを消してしまうかもしれない。


そんなの嫌だ。


嫌だ!


あたしの中で何かが弾け、赤ちゃんに対する思いが胸にのし掛かる。


生きて!


生きて!!


押し寄せてくる陣痛の波とうまく吸いきれない酸素で混乱しているあたし。


何をどうしていいのか訳がわからず、助産婦と医者の指示に従うしかない。


頼みの綱はこの人達で、この人達に全てがかかってる。


お願い


赤ちゃんを助けて…


腰の骨が引きちぎれてしまいそうな痛みがくるたび全身に力が入り、エネルギー切れになりかける。


遠退く意識と精神の戦い。


それがエンドレスに続いた。


「骨盤が小さすぎてダメだ。帝王切開、いや、吸引するから急いで持ってきて!早く!」


「はい!」


医者が最後にくだした決断は「この人は自力で産みきれない。赤ちゃんを吸引して出すしかない」だった。


小柄な体に比例して出来上がった小さな骨盤が今は憎らしい。


産みきれない骨盤なんて


想定外も想定外だ…
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