【好きだから別れて】
夕方をとうに過ぎた外へ飛び出し車に設置したチャイルドシートへ光を乗せ、いく宛もなくあたしは車を走らせた。


くすんだ街の街灯がおぼろげに道路の両脇をかため、一直線につらなる。


小ぶりな飲み屋が数件立ち並ぶ近隣の道を通り抜け、実家寄りの国道を軽く走行して車に積んでおいた好きなCDをかけた。


真也の存在がうっとおしいし悔しくて、止めどなく勝手に涙が溢れ出る。


着ていたワンピースのスカート部分をこぼれ落ちる涙が生暖かく濡らし、地図を描く。


ビシャビシャもいいとこだ。


人前で泣くのは弱い事のように感じていた自分は、影に隠れて泣く癖がいまだ抜けない。


悠希の前では素直な涙を堪えず、あんなにたくさん泣けたのに。


真也の前では全く泣けない。


光は車の振動が心地いいのか、天使の寝顔を浮かべ後部座席でいつの間にか寝ている。


小さな光の上に掛けたブランケットを片手で掛け直して、頬を親指で軽く撫でしっかり前を向いた。


「……♪」


光を気にしながら一休みで停めたコインランドリーの駐車場に設置された自動販売機でココアを買い、車に足を踏み入れたらあたしの大好きな曲が流れはじめた。


「あっ…この曲…」


悠希といつも聞いていた曲が車内一帯を包み、優しい音色を運んでくれる。


熱くてしっかり握りきれないココアの缶をドリンクホルダーへ置き、あたしは目をつぶりその曲をじっくり聞いた。
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