【好きだから別れて】
【歩・28歳】


悠希と出会い別れるまで6年。


いつもどんな時も彼の影を追い過ごしてきた。


街中で香水の懐かしい匂いが漂うと、顔は違うのにすれ違い様振り返る。


悠希が乗っていたシルバーのBMW。


同じ車種を見かけては立ち止まったまま固まり、その場を動けなくなる。


悠希が運んでくれた病院の前を通り過ぎた時。


あんなに苦しかった過呼吸を思い出し、なぜか笑顔になった。


悠希と見た空の青さ。


今見る空はあんなに青く輝いてない。


時間は忘れさせてくれる。


時間は優しいんだよ。


本当に?


あたし、何も忘れてなどいない。


あの時


あの場所


あの空


悠希はあたしの中で笑顔のまま生き続けている。


「元彼が忘れられなくてさ」


友達に相談されれば


「前を見て生きてくしかねぇだろ。てめぇの足はなんの為にあんだ?立つ為にあんだろ?でもボーっとつっ立ってんじゃねぇぞ!歩け!」


人には強く言えるのに、自分は悠希との思い出にしっかりと繋がれている。


あたしは前を向いてるのだろうか。


ただよかった時にしがみついてるだけなのだろうか…


常に冷静なふりをし“過去なんて見ないカッコイイ女”


そんな女をきどり、強い女の看板を未だ落とせていない。
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