雨に似ている 改訂版
プロローグ
あの頃、僕はショパンが大嫌いだった。

ショパンを弾くたび、自分の才能の無さや自分の技量の限界を思い知らされた。

音を立てて崩れていく自信、自分の存在価値さえも、わからなくなっていた。

僕の目に映る空は、どんなに晴れた日でも毎日が雨模様で、どんよりとした灰色の薄暗い雲に覆われている、そんな気がしていた。

――叶えたい夢や思いは、どんなに走って追いかけても捕まえられない青い鳥のような物だ。
僕がいくら手を伸ばしても捕まえることはできない


そんな風に思っていた。


何をするにも、ただ空虚で何もかもを諦めたい心境だった。


僕は毎日窓枠から見える小さな空を見つめて、溜め息ばかりついていた。

冷たい雨が降る日もあれば、優しい雨が降る日もあることに気づかなかった。


幼少期からピアノを習っている師匠の勧めでピアノコンクールに出場したのは、そんな時、中学3年生だった。
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