雨に似ている
詩月はもどかしさと悔しさと思うように弾けない自分への怒りに押し潰されそうになり、演奏を途中で放棄し逃げ出したい気持ちにもなった。

集中力が薄れ、どうにでもなれと思うと後は、弾きながら上の空になった。

がピアノ専攻主任、西之宮は詩月のショパンの演奏に対しただ、じっと聴いているだけでひと言も口を挟まなかった。

何も言わない西之宮に何も言ってくれない不安が募る。

懸命に自分自身のピアノを模索する詩月の演奏は、誰の耳にも頼りなく不安定な素っ気ない演奏にしか聴こえなかった。

以前とは、あまりにも違いすぎる詩月の演奏。

自由に弾きたい。自分自身の音を奏でたい。と思えば思うほど詩月の演奏は不確かな演奏になった。


何故ピアノをを弾くのか?何故ショパンを弾きたいのか?
詩月は、ふと考える。

2年前のコンクール以降、詩月の中で父の存在は更に大きくなり詩月のショパンを壊していき、詩月が自分自身のショパンを全く弾けなくなるまで、さほど時間はかからなかった。
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