雨に似ている  (改訂版)
詩月は貢のことを生真面目な優等生のような演奏をするのではないかと思っていたが、意外にも貢のヴァイオリンの音は柔軟性があり生真面目ではなく、とても合わせ易い音だと思った。


「緒方、音が少し硬いな。もっと遊んでもいいんじゃないか?」

詩月が郁子のピアノに注文をつけた。

貢も同じように思っていたのか「郁、もっとピアノを歌わせて」と声をかけた。

郁子は自分自身が弾きやすいようにアレンジしてきた曲にダメ出しをされ、自分自身でも詩月との初音合わせに戸惑い、思い通りに弾けていないと自覚し、懸命に詩月と貢の演奏に合わようとするものの2人の技量に上手く乗れないことに苛立ちを覚えた。


「緒方、もっと自由に弾いてみて。ちゃんと合わせるから」

詩月が、穏やかに声をかけたが、郁子は詩月と貢のヴァイオリン演奏についていかなければと焦るあまり舞い上がっているのか演奏が上手く噛み合わない。

詩月は演奏を止め、貢に「そのまま弾いていて下さい」と言い、郁子の肩をポンと叩きピアノの演奏交代を求めた。

郁子はホッとしたような表情を浮かべ席を立ち、詩月がどんな演奏をするのか興味津々で詩月の演奏に耳を傾けた。
< 120 / 143 >

この作品をシェア

pagetop