雨に似ている
詩月が、郁子の編集した楽譜に目をやりながら「BeatlesのLet It Be」を弾く。

特に難しい曲ではないが、詩月の弾くピアノの音色は胸の奥底に深々と染み入るように澄んだ音が優しく響き、それに貢の弾くヴァイオリンの音がさざ波のようにピアノの音に重なる。

『Let it be』は英国で最も有名なロックバントグループ、ビートルズの曲だ。

1962年に英国、リバプールでデビューしたビートルズが、1970年にリリースした22枚目のシングル曲である。

1970年に解散した為、最後のアルバムになった、「レット・イット・ビー」のカバー曲にもなった。

作者はポール・マッカートニーで、彼が十四歳の時に乳癌で亡くなった母親メアリーが夢に表れ聖母マリアのように、癒しの言葉をかけてくれたことをモチーフに作られた歌だと言われている。

初見でこんなに情感を込めて弾けるの? 郁子が目を丸くする。

詩月のピアノの音に、貢のバイオリンの音がみごとに調和している。

ーー周桜くんの演奏の前には、弾き込んできた演奏でさえも霞んでしまう。
やはり周桜くんには適わない。

郁子は、詩月と自分の実力の差を思い知らされる。


「やっぱり、……あなた凄いわ。ライブ用にかなり編集した楽譜を初見で、こんなに弾けるなんて」
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