雨に似ている
「……大丈夫だよ」

詩月は言いながらも辛そうに息をついている。


「ダメだ。顔色も悪いし息もあがっている。爪の色も紫色になってるだろう」
と詩月の手首を掴む。


詩月は何も言えず悔しげに理久に従う。

郁子が詩月を心配そうに見つめ「無理しないで。貢と間を繋ぐから」と微笑んだ。

貢と郁子は、学園前の喫茶店「モルダウ」で2人がいつも演奏する曲を数曲続けて弾いた。

詩月は理久の側で休憩し呼吸を整えながら、2人の息の合った演奏に耳を傾ける。

ーー何て楽しそうに弾くんだろう。何て楽しそうに合奏するんだろう

詩月は貢と郁子の様子を食い入るようにみつめた。

1音1音、慎重にミスをしないように完璧に弾こうとしている自分の演奏が滑稽に思えてくる。

父親似の音を気にして、緊張しながら気を抜かないように弾いてる自分の萎縮した演奏を見窄らしく感じる。

1曲弾くごとに、呼吸を整えながら終始緊張して弾いてる自分と、彼らの演奏は大違いだと思う。
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