雨に似ている 改訂版
雨に似ている
「郁子! お前、あいつに何か言ったのか!」

聖諒学園前BGMを流さないカフェ・モルダウ。

理久は荒々しく扉を開けて入ってくると、郁子の胸ぐらを掴みそうな勢いで怒鳴り声をあげた。

郁子は突然、理久に詰め寄られたうえに怒鳴られ、何がなんだか訳もわからず戸惑いの表情を見せた。

「おい理久、落ち着け。ちゃんと順をおって話さなきゃわからないだろう」

貢が2人の間に割って入り、理久を懸命に宥めた。


「昨夜、あいつが発作起こして……。夏前からあいつ、度々発作起こしていて……あまりいい状態ではないんだ。。だから、ウィーン留学を辞退したし極力無理しないようにしている。だから『手術をしてくれ』なんて、そんな無茶……あいつが言うはずないんだ」


ーーそんなに……体が悪かったなんて

郁子は屋上でヴァイオリンを弾く詩月に、自分の言った言葉を思い出した。

――貴方はいつもそうやって嘆いてばかり。ちゃんと自分の音に向き合ってみなさいよ。貴方は中途半端な気持ちでしかピアノを弾いていないのよ。上手く弾けないからと楽譜を破るような人がいくら弾いたって……弾かない方がマシよ


酷いことを言った。あんなこと言わなければ良かったと思う。
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