雨に似ている
詩月が下村楽器店が主催したライブの翌日から体調を崩し、10日も欠席していて大丈夫なのだろうか? と心配していただけに、理久から伝えられる詩月の病状は思っていた以上に深刻でショックが大きかった。


「あいつは……精一杯頑張っているんだ! なのに……あいつに何を言った!?」


理久が声を荒げ、行き場のない怒りに拳をテーブルに叩きつけ、更に続けた。


「あいつ……中学生の頃から親父、周桜宗月に弾き方が似ているとずっと言われていて、何度も弾き方を変えて……2年前のコンクールも師事しているピアノ講師に言われて嫌々出場したんだ。満足のいく演奏でもなかったのに優勝して……周桜Jr.だと騒がれて、前の高校の教師からも散々期待され、あれこれと演奏をこうしろ、あーしろと言われて……ピアノを止めてヴァイオリンに転向することも考えていた。自主退学するほど精神的に追い込まれ自信喪失して……1時はノイローゼ気味になったり鬱気味にもなったんだ。演奏中に度々パニックを起こすし、体調崩して体力も落ちていて……そんな不安定な状態だから手術もできなくて……」

理久が声を震わせた。

郁子は項垂れポロポロと頬に伝う涙をどうすることもできずに泣き崩れた。

貢は理久の肩に手を置いたものの、かける言葉が見つからなかった。
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