雨に似ている
理久はそれを素早く胸で受け止め、急ぎ詩月の後を追った。


ミス1つしていない完璧な演奏が何の前触れもなく、いきな凄まじい不協和音で中断した衝撃に、店内のざわめきは怒りと驚きにみちている。

貢と郁子は詩月を「演奏放棄なんて演奏者として最低だ」と、軽蔑し憤りさえ感じた。

だが「何があったんだ? 何故、演奏を途中で止めただ?」と思いながら、窓硝子越しに歩いていく詩月と理久の様子を見送る。

詩月は彼を心配し、彼の後を追う理久に、背中を向けたまま振り返る素振りさえ見せず通り過ぎていった。


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