雨に似ている
「『周桜宗月のショパン』……あれも? しかも本気の演奏ではなかったのか?」


貢は思わず、口に出た自分の言葉に身震いする。

郁子が「嘘でしょう!?」震えた声で言う。

その場に居合わせた学生達も、扉越しの会話に唖然としている。


「もう1度、弾かせてください」


「今日は止めだ」


「……もう1度、初めから」


「無駄だ。頭を冷やし出直して来い」

懇願する詩月の言葉は、西ノ宮の怒り声にことごとく拒否される。

楽譜を手にした詩月が、扉を荒々しく開け、練習室前の学生の数に驚いた様子をみせるが、すぐさま彼らを睨みつける。

詩月は野次馬の中に、貢と郁子の姿を見つけるなり、険しい表情をし、凍てついたような眼を向ける。

貢は詩月の視線に、ゾクリと背中に悪寒が走るほどの威圧感を覚えた。


「盗み聞きか、いい趣味だな……」

詩月がポツリ呟く。
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