雨に似ている

「お前は誤魔化して弾いているつもりだろうが、俺の耳は誤魔化せない。……『周桜宗月のショパンをコピー』大した技だと耳を疑う」


深く長い溜め息が緊張を呼ぶ。


「だが、それでいてお前の演奏は心ここに有らずだ。何を考えて、何をためらって弾いている？」


「……　……」


「周桜!!」

西ノ宮の怒鳴り声と共に、凄まじいピアノの不協和音が鳴り響く。


「もっと素直に、自信を持って弾いてみろ。本気で弾いてみろ！！」


扉越しの会話に貢も緒方も、居合わせた学生達も息を飲む。


「そんな……嘘だろう」


「『周桜宗月のコピー』って、信じられない」


「これで、まだ本気の演奏ではないなんて」


顔を見合わせ各々呟く。


「まさか……」

貢と郁子の上擦った声が、息を合わせたように重なる。

２人は先日、カフェ·モルダウで、周桜詩月の弾いた「雨だれ」の演奏を思い出す。