雨に似ている
「彼、何処か悪いのかしら? 体育の時間は、いつも見学しているし」

郁子は貢の考えを否定した上に、華麗にスルーする。


「音楽科は、指に怪我をする訳にはいかないのを理由に、体育を見学するという奴は珍しくないだろう」


貢は話題のすり替えに、即座に対応する。


「そんな軟弱なのって信じられない。だけど……今日の彼のあの様子は?」


「まあ、気管支炎とか喘息ではないよな」


「貢、真面目に話してるんだけど」


「気になっているのはわかるけれど、あいつはそういうのまともに話すような奴ではないよな。あれだろ!? 自己紹介も、ろくにしなかったんだろ」


「そうなの。趣味が読書で、古典文学が好きだって話しただけ、後は何1つこたえなかったの」


「噂は聞いている。一癖ありそうな奴だよな」

郁子は苦虫を噛み潰したような顔で、黙りこんだ。
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