雨に似ている 改訂版
雨だれ
詩月は校門前で車を降り、傘をさす。

詩月によく似た顔をした母親が、窓を半分開け透き通るような声で言う。


「何かあったら連絡しなさい」

いつもと同様に優しく。

詩月は母親の声に、傘を傾け頷いて、車を見送る。

色とりどりの傘の群れに揉まれながら、押し流されるように歩いて校舎に向かう。


数日前。
ひとしきり激しい雨が降り雷鳴が轟いた。

「梅雨の始まりと終わりには雷鳴がある」なんて言うと、爺臭いことを言うと失笑される時代だ。

だが、詩月は古典文学の中には確かに、そんな記述があることを知っている。

薄暗く灰色をした空に、押さえつけられるような圧迫感を感じる。

詩月は雨の日が苦手だ。

湿った空気のせいか気分まで落ち込むだけでなく、体調まで優れない気がする。

詩月は雨空を見上げ、小さく溜め息をつく。


「どうした?」

理久に肩を叩かれ、振り向く。


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