雨に似ている
「……余計なことを喋ったなと思って」


「余計なこと?」

理久はポツリ呟いた詩月に問い返す。


「安坂さんと緒方に、モルダウでの不協和音の理由と退学した理由をね……困惑していた」


「ヘェ~。お前が他人に自分のことを話すなんて、珍しいな」

理久は黒い蝙蝠傘を閉じながら、微かに口角を上げた。


――何故、彼らにあんな話をしたのか? 適当に誤魔化すことも、無視することもできたのに

詩月は、思いながら理久からの視線を反らした。

雨が止まないみたいに降っている。

詩月は濡れた傘をゆっくり閉じて、上履きに履き替える。


「体、大丈夫か? 最近あまりよくないんだって」


「少しね……梅雨時で蒸し暑いから。でも、真夏よりはマシかな」

詩月の表情が曇る。
顔に1枚、見えない仮面を被ったように。


――理久は何もかも、お見通しだ

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