雨に似ている
詩月は思いながらも理久に、気づかれないようにそっと溜め息をつく。

気がつくと詩月は理久の後ろを歩いている。
理久の背中が見える。

普通科棟と音楽科棟を分かつ廊下にさしかかる。

理久が心配そうに振り返る。

詩月の息遣いは1歩1歩、慎重にゆっくり歩いていても乱れる。


「詩月、おぶってやろうか」


詩月は「えっ!?」と聞き返し立ち止まり、理久の顔を見上げ、呼吸を整える。


理久は有無を言わさず詩月の体を背負う。


「……理久?」


「無理をするな。遠慮なんていらない。辛い時はちゃんと言えよ」

理久の声は険しい。

だが詩月は理久が、いつも心配してくれている言葉に胸が熱くなる。

理久は背は高いがガッチリ体型ではない。

運動神経は抜群で、スポーツ万能だが運動部ではない。

すらりと伸びた長い手足は、どんな洋服も巧く着こなしてしまう。


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