雨に似ている 改訂版
不協和音
いきなり、不協和音が鳴った。

突然の音に耳を塞ぐ者「チッ」と舌打ちをする者、睨み付けるように見つめる者。

一瞬の間に、店内の静寂が喧騒に変わる。


ざわめきの中、彼はピアノを閉じ足早に、無表情で席に戻った。

鞄とヴァイオリンケースを素早く手にし、レジに向かう。

岩舘理久が血相を変え、彼を呼び止め、きつく腕を掴む。


「おい!……詩月」

彼は凍てついた瞳で理久を見上げ、掴まれた手を払った。

無言で会計を済ませると、振り向きもせずにカフェ·モルダウを出た。

カフェ入り口の扉に吊るされた風鈴が、涼やかな音を鳴らす。


山手の小高い丘、閑静な住宅街に私立聖諒学園はある。

アール·デコ様式で統一された外観の学舎は、高校には普通科と音楽科があり、エントランスホールを境に棟が分かれている。

そして大学と大学院それに学生寮が、広い敷地内に建っている。



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