雨に似ている
貢は詩月の顔が、一瞬凍りつくように冷たくなったのを感じた。

思わず詩月の手の甲に手を乗せ、伝わってくる震えを感じとる。


「周桜宗月の……」


「わたし、彼の日本公演を聴いて以来、ファンなんです。CDも何枚か持っていて」


「そう……」

詩月は平常心を装い短くこたえたが、指の震えが止まらなかった。


「周桜、大丈夫か?」

貢が詩月の手の甲に乗せた手をポンと、乗せ直す。


「郁は、この間のお前の『雨だれ』を聴いて、かなり刺激を受けたみたいだ」


「……あんな酷い演奏」


「お前が演奏を不協和音で中断してしまって、あの後……郁を宥めるのは大変だった」


「……ショパンなんかリクエストしなきゃ、不協和音なんて鳴らさなかったのに」


「周桜、郁にとってショパンの『雨だれ』は特別なんだ」


貢が郁子がピアノを弾いているのを見つめながら、感情を抑えたように話す。


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