雨に似ている
「2年前のコンクール。
お前が郁の演奏に、衝撃を受けたように郁もまた、お前の演奏に、衝撃を受けたんだろう」


詩月には、貢が目を細め、郁子を見つめる眼差しは、明らかに郁子への特別な感情があるように思える。



曲調が、一変する。

心に影をさすように冷たく重く──雨音が奏でられる。

横殴りの激しい雨。
窓を叩きつけるような雨。
強く荒々しく。
ピアノの音がずしり胸に響く。


「どうだ? 郁の『雨だれ』は。2年前のコンクールと比べて」


詩月はどう答えていいのか、わからない。
言葉が出てこない。
声が出ない。

詩月は先日、不協和音を鳴らし演奏放棄した「雨だれ」と、郁子の演奏に攻められているように感じる。


郁子の弾く「雨だれ」が凄まじいほど胸に迫まり、息苦しさを感じて、胸に手をあてる。

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