雨に似ている
見失ったショパンの演奏、壊れたショパンの演奏が、詩月の頭の中で激しく鳴り響き、心を掻き乱す。

郁子の「雨だれ」が怒涛のように胸に押し寄せる。

詩月は震えながら思わず、耳を塞ぐ。


「周桜、どうした!?」

貢が詩月の腕を掴み、詩月の顔を覗きこむ。


「周桜!!」

詩月は激しい頭痛と耳鳴りで目眩まで起こしそうだった。

ピアノの音色、店内の話し声もを何処か遠くに聞こえているような気がする。

詩月の視界が歪む。


「おい、周桜!」

貢が覗きこんだ詩月の目は、焦点が定まっていない。

詩月は両手で胸を強く押さえる。


「周桜!? しっかりしろ!!」

貢は詩月の両肩を掴み、揺さぶりながら叫ぶ。

返事はない。


「おい、周桜!?」

貢の呼ぶ声が、虚しく店内に響く。

詩月の体が脱力するように、貢に凭れかかる。


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