雨に似ている 改訂版
窓枠から見えるのは、四角く小さな空と見慣れた街並み。

詩月は部屋を見回す。

白い壁、ツンと鼻をつく独特の匂い、手首に刺さった点滴の針。

詩月は「またか」と溜め息を漏らす。

今、自分が何処にいるのかに気づく。


――申し訳ないことをしてしまったな。演奏どころではなくなっただろうに……

詩月はカフェ・モルダウでは先日の演奏放棄といい、今日といい、迷惑ばかりかけていると思う。

詩月には貢の叫ぶ声を聞いた後の記憶がない。

詩月は窓枠から、濃い灰色に染まった四角い空を見つめながら、数日は泊まりだなと思い肩を落とす。

「気づいたか?」

理久が私服姿で、病室を覗き込む。

ツカツかと病室に入ってくるなり、詩月に話しかけた。


「ついさっきまで貢と郁子もいたんだがな、叔母さんも」


「理久、緒方……怒ってなかった?」


< 51 / 143 >

この作品をシェア

pagetop