雨に似ている
詩月が倒れたと言う知らせを聞き、病院に駆けつけた詩月の母親。

郁子と貢は「大丈夫だから」と、知らせを聞くまでの時間を、とても長く感じた。

詩月によく似た顔の母親が、郁子と貢に流暢な日本語で、丁寧に頭を下げた。


騒ぎの翌日、病室を訪ねた郁子。

詩月は開口一番「すまなかった。演奏を中断させてしまって」ポツリ呟いた。

深々と頭を下げたまま、暫く顔を上げなかった。


「ちょっと、そんな風に謝らないでよ」

郁子は詩月がなかなか頭を上げようとせず、思わず詩月の手を握った。


「お詫びと言うか……教会のチャリティーで、演奏するから聴きに来ないか? あぁ……勿論、退院したらの話だが」

詩月は淡々と表情を崩すことなく言って、穏やかな笑顔を向けた。


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