雨に似ている
「迷惑なら……いいんだ。素人の合唱の伴奏をする程度だから」

詩月は申し訳なさそうな顔をし、胸に手をあて数回、咳をした。

空咳とも風邪を引いた時とも違う、喘ぐような咳。


「いつになれば、まともに晴れるんだろうな。胸にカビが生えそうだ」

詩月は背中を擦ろうと立ち上がった郁子に「大丈夫だ」と、寂しそうに微笑んだ。


郁子はカビが生えそうだなんて、笑っていいのかどうかわからずに「そうね」と、短く頷いた。


「珍しいな。今日は……安坂さんが、一緒ではないんだな」


「ん? 貢は今日、施設へ慰問に行ってるの。オケ部のコンサートマスターだもの」


「コンサートマスター。そうだったな」


「ねぇ、そんなに 一緒にいるように見えるかしら?」


「なんだ? 自覚していないのか。有らぬ噂もされてるのに」


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