雨に似ている

貢は、詩月とは師事しているヴァイオリン教授が同じで、幾度か詩月の演奏を耳にしている。

だが、貢は詩月が正直これほどの弾き手だとは思っていなかった。

普段、教授や学生の前で演奏するヴァイオリンの音色とは、まるで違う。

ただ、合格点を貰うだけの模範演奏。

普段の、詩月のヴァイオリン演奏からは、何も伝わってこない。

何を弾いても難なく弾いても、ただ上手いだけの演奏でしかしないのに、他の学生に遜色がない。

「完璧にミスなく弾きました」と言っているような演奏をする奴だと思い、軽蔑さえしている。

郁子が贔屓にしている学生でなければ、関わりたくない存在。

だが、何故か気になってしまう存在。

それが詩月に対する、貢の印象。