雨に似ている
貢には詩月が何を考えているのか? さっぱり、わからない。


「ピアノもヴァイオリンも素直に、ただ自由に弾けるなら」

詩月はポツリ、呟く。


貢は詩月の頼りない声の調子に、言葉を失う。


何事かあったな、と思うが下手に聞いてはいけない気がした。


「続きを」

詩月は貢の言葉に、一瞬、驚いたような表情を見せ、何も言わずに、再びヴァイオリンを弾き始める。


――こんな心のこもった演奏ができるのに……。何故、いつもは気の抜けたような演奏をしているのか? こいつは普段、手を抜いて弾いている。これほどの実力を隠して弾いている

貢は真意を問いただしたくなる。


――もったいない……本気で弾けば、まだまだ伸びるのに。どれほどのヴァイオリニストになるのか


貢は、詩月がヴァイオリニスト志望ではなくてよかったと思い、ホッと胸を撫で下ろした。
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