雨に似ている 改訂版
ショパンなんか大嫌いだ
10日余り降り続いた雨が止んだ。

激しく冷たい雨は怒号のような雷を幾つも鳴らし、久しぶりに青空が戻った。


「いつになれば梅雨明けするんだろうな。カビが生えそうだ」

郁子は詩月と病室で話した会話を思い出し、青空を見上げる。

「モルダウ」で倒れて以来、詩月は度々、体調を崩し欠席を繰り返している。


詩月が数日ぶりに登校した日。
「周桜詩月がウィーン留学を辞退した」という噂が、学園内に流れた。

郁子も貢も詩月の実力を思えば「何故?」という疑問を拭いきれない。

貢は、詩月が留学を辞退した噂を聞き、ひどく落胆した様子の郁子を宥めた。

放課後。
郁子が、ピアノ課の主任西之宮のレッスンを終え、帰り仕度を整えて練習棟の階段にさしかかった時。

郁子はピアノの音を聴き、耳を凝らした。


――教授以外で、これほどの弾き手は周桜くんをおいて他にはいない

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