雨に似ている
郁子は荒々しく扉を開け、中に踏み込み叫んだ。



「何をしてるの! 楽譜を破るなんて」


「!?……何をしようと君には関係ない」

詩月は、郁子の顔を見ようともせず、冷たく言い放つ。


「また盗み聞きか……」

郁子は、楽譜を引き裂く詩月の手を押さえた。

詩月の手から素早く楽譜を取り上げようとする。

が、間に合わず楽譜は無惨に引き裂かれ、散乱してしまう。


「あなたのピアノの音が1階まで聞こえてきたの。扉が半開きになっていたわ。ねぇ、何が気に入らないの?
完璧なショパンじゃない?」

郁子は詩月を激しくなじるように叫んだ。

詩月が引き裂き床に散らばった楽譜の切れ端。

詩月は深い溜め息をつきながら、それらを一瞥し、フッと無表情に微笑んだ。


「……課題曲が『ショパンのエチュード』だなんて」
言いながら座り直した。


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