雨に似ている
詩月は言いたいことをめいっぱい、考える。


――それに、弾いているうちに歓喜したり悲嘆したり、感情も高まる。
弾き手は作曲家が譜面上に、描いた音を生きた音にするアーティストだ。
だから、脈拍が速くなったり、息が上がったりするくらい当たり前なんだ

詩月は言ってやりたくなる。

でも、詩月は声に出したりはしない。

詩月には、言いたいことを当たり前に吐き出せば、スッキリするのはわかっている。


が、詩月は患者が少しでも本音をぶちまければ、患者と看護師の関係は、たちどころに崩れてしまう気がする。


調子が良い時は、関係が崩れていてもいいと思うことがある。

が、調子が悪い時に、何かと手を煩わせることを思えば、大人しくしているに限ると思う。


詩月が、度々の入院生活で学習したことだ。

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