雨に似ている 改訂版
折り鶴
詩月は主治医との話を終え病室に戻ってきた母親の、目を腫らした顔を正視できなかった。

検査結果は、予想していた以上に芳しくなかったのだろうと思う。

詩月は母親の悲しむ顔を見たくなくて、自分からは何も聞かなかった。

詩月には母親が努めて気丈に明るく振る舞う姿が、痛々しく思える。


長年、ヴァイオリンを弾いている母親のスラリとした長く形の良い手。

母親が薬指に光る指輪に目を落とし、嗚咽をこらえ肩を震わせている。

今にも瞳から零れ落ちそうな涙の雫を幾度も、ハンカチで押さえる。

詩月の胸の奥で、口にできない思いがチリッと騒ぐ。


「ごめん」

詩月はただ、それだけ言うのが精一杯だった。


数日後。

詩月は窓から半月ぶりに見上げた空を、大きくとても眩しく感じた。

窓枠から見える小さな空でなく、どこまでも続く空の青さを。
< 89 / 143 >

この作品をシェア

pagetop