雨に似ている
こんなに明るい奴だったのか? と思う。

両手に花火を握り、満面に笑みを浮かべた郁子にドキッとした。

花火が束の間の光を輝かせ、白く煙を残して散っていく。

詩月は華やかに灯る光の中に、浮かんでは消え消えては浮かぶ郁子の笑顔を確かめた。

光の灯る僅かな時間。

先程、席を共にした女性を思い出した。

無限に広がる宇宙と幾千幾万もの時の片隅では彼女の生きた年月も、一瞬に過ぎないと思う。

その一瞬の中で輝いた時間は、どれほどあったのだろうと。

詩月は皺の刻まれた細い指と優しい笑顔を思い浮かべ、胸ポケットに入れた折り鶴をそっと取り出し息を吹き込んで掌に広げてみた。

花火の灯りに照らし出された白い折鶴が微かな風に揺れ、翼を動かしたように思えた。


「折り鶴?」

郁子が不思議そうに尋ねる。


詩月は「先程、お婆さんに貰ったんだ」と言いながら、理久が手渡す線香花火を受け取った。

蝋燭の火に線香花火の先をそっと近付け、点火する。
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