雨に似ている
火薬の焼ける匂いと共に小さく音を立て、細い光の枝が八方に線を描く。

耳を澄ませ、揺らさないように指に神経を集中させて、じっと花火を見つめた。

郁子も先ほどの表情とは一変し、儚い光を絶やすまいと静かに息を潜めて花火を握りしめている。

小さく細かい線が、幾重にも火花を散らすさまに溜め息が漏れる。

花火の火薬の匂いにむせて集中していた気が途切れ手元が微かに揺れた瞬間、丸くオレンジ色をした火種がポトリと虚しく落ちた。


「あ~」

ふと 落胆の溜め息が漏れた。

郁子がこちらを見てクスッと微笑んだ。

安坂の握った線香花火がオレンジ色の火種を膨らませ、静かに細い線を描き始める。

四方に細かく枝分かれしていく頼りない光は、更に細かく八方に広がっていく。

チリチリと小さく音を立てながら。

詩月も郁子も理久も、そして安坂も押し黙ったまま、ただ花火の描く繊細な儚い灯りを見つめた。


「なんだか哀しいな。パッと咲いて、あとは小さく細々と散っていく」

理久がポツリと漏らす。

ーー人の一生も花火みたいなものかもしれない

詩月は思いながら、言葉を飲み込んで溢れそうになる涙を気付かれないようにそっと拭った。
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